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【iNSIGHT飯稲米】一つだけではない米価下がらない原因

 政府備蓄米を放出しても、量販店頭価格がなかなか下がらない。巷間この点に不満が噴出しているため、農相経験者である石破茂首相自ら現役農相に対策を指示したのだとか。農林水産省は、この「なかなか下がらない」原因として、「卸売業者段階で新たな包装や輸送に時間がかかっているため」と説明しているのだが、もちろん原因が一つだけのはずがない。以下に列挙してみよう。

時間かかるブレンド規格調製、新包装表示、輸送手配

 政府備蓄米は、3月の第2回売渡入札までに21万tが放出された。集荷業者から卸売業者に売り渡される相対価格と比較するため、政府備蓄米売渡入札の加重平均落札価格に消費税と運賃・手数料を上乗せすると、60㎏あたりで第1回25,074円、第2回24,540円、第1~2回平均24,897円となる。対して相対価格は2月で26,485円、3月で25,876円だから、3.2~7.3%(802~1,945円)の開きがある。これを機械的に量販店頭5㎏価格に当てはめれば、4,000円を割る勘定になる。
 だが、それは出来ない。先に「安い」政府備蓄米を売ってしまえば、以前に「高い」相対価格で仕入れて在庫してあった現物を売ることが出来なくなってしまう。したがって流通販売業者は、以前から仕入れていた在庫とブレンドすることで、値段的に薄める必要が生じてくる。
 このブレンド比率の確定、言い換えれば「規格調製」に時間がかかるのは事実だ。またブレンドに伴い、精米袋の表示も変更の必要が生じ、これにも時間がかかる。だが、逆に言うと一度ブレンド比率を確立し、変更した精米袋を揃えてやれば、あとはルーティンになるわけだから、ここまで送れている理由を説明しきるには不十分と言わざるを得ない。ただ、ルーティンとは言い難い輸送の手配に時間がかかる事情は、その後も続いている。

大手量販店の特売価格が反映されないPOSデータ

 「安い」政府備蓄米は、その9割までもを全農が落札している。全農が販売する先は、従来から取引のあった比較的大手の卸売業者に限られる。第2回入札までは玄米による転売が認められていなかったから、この比較的大手の卸売業者が販売する先は、これまた比較的大手の量販店チェーンに限られる。実名をあげるなら、IYやイオンといったあたりだ。地方や中小のスーパーや専門小売には流れないわけだ。
 ところが農林水産省が毎週公表している量販店頭価格の根拠はPOSデータなのだが、これにはIYやイオンといった大手が含まれていない。だから、いつまで経っても政府備蓄米の安さはPOSデータに反映されず、したがって見かけ上、「なかなか下がらない」ことに繋がる。
 政府備蓄米から先に売れてしまうことを防ぐため、全農は大手量販店に対してチラシに掲載することを控えるよう求めている。しかし実際に大手の量販店頭に行ってみれば、意外なほど「特売商品」(政府備蓄米とのブレンド商品)が並んでいることが分かる。
 第3回入札からは、玄米による転売が条件付きで認められた。これにより中小や地方にも流れ始めるはずだが、これがPOSデータに反映されるまでは――5月の末から6月上旬にかけてということになるだろう。

流通の目詰まり解消は絶望的、まだ続くチキンレース

 そもそも政府備蓄米の放出は、農林水産省が言うところの「流通の目詰まり」を解消するためのものだったはずだ。これが一向に解消されないことこそ、「なかなか下がらない」最大の要因と言える。目詰まりを起こしているのが産地であれ中間流通であれ、政府備蓄米の放出によって総体の価格に先安感が見えてこなければ、目詰まりは解消されない。このまま放置しておけばタイムアップ、新米が出回り始めてしまうが、それでもいいのだ。どうやら令和7年産米の価格が下がらないことが確定的になってきたため、古米になっても売れることがハッキリしてきた。いま損切りして売る必要性は薄れてきた。
 ゴールデンウィーク明けになったら冷えるはずだったスポット相場が、困ったことに冷えるどころか上昇基調にある。このままチキンレースを続けても、消費者が「安い政府備蓄米」の恩恵を受けることが出来る期間は、ごく短いものとなりそうだ。

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