江藤拓農相は5月9日の閣議後定例会見で、「政府の財産である備蓄米を放出する決断をしたにもかかわらず、今の段階では当初の期待された結果が出ていない。申し訳ない気持を持っている」と指摘。「一日も早く備蓄米放出の効果を国民の皆様方が実感していただけるように、さらに努力していく」とした。
だが具体的な米価高騰対策となると、「今のところ、まだあるとも言えないし、ないとも言えない。発表できる段階にあるものは何もない――が、正確な答弁だと思う」と、途端に歯切れが悪くなる。ただ、「備蓄米以外に解決策を求めれば、備蓄米を放出しても意味(効果)がないのだ認めることになりかねない」とした上で、「まずは備蓄米の放出効果を最大限に発揮させる手立てを考えることが第一だ」と強調している。
一問一答(5月9日、閣議後定例会見から抜粋)
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記者 一昨日(5月7日)発表されたスーパーでの米の販売価格は17週連続で値上がりし、4月前半までの備蓄米の販売状況調査では、こうした小売業者への流通が進んでいない実態が浮き彫りになっています。こうした状況に対する大臣の受け止めと農水省としての今後の対応方針をお聞かせください。
大臣 備蓄米は、足りないというご指摘があったので、31万t放出いたしました。しかし、備蓄米自体もしっかり流通ができていないということは、やはり改善すべき余地が多分にあるというふうに思っています。備蓄米がスーパーの店頭に並び始めておりますが、安いものでは、昨日、ホクレンの会長さんとお話をする機会もありましたが、2,980円だとおっしゃっていました。パールライスですが。税抜きでも、大体安いもので3,000円前半、大体東京周辺では3,500円ぐらいで流通し始めておりますが、ないところにはない。あるところにはある。量的にも足りないというのは全くの事実だと思います。
このため、先週(5月)2日、事務次官と農産局長から全農の理事長に、農林水産省に来ていただいて、政府備蓄米が流通している量が一定程度に留まってしまっていると。そして、消費者の皆様方にもっと早く備蓄米が供給されるように、それを最優先にして速やかに取引先との調整を進め、そして、前倒しで供給の拡大を行うことを要請させました。そして、夏までに、毎月、備蓄米の売り渡しを行う予定ですから、政府備蓄米を必要とする全国の小売、中食・外食の業者に対して、一層の安定供給に努めるように要請をしたところであります。
全農さんからは、取引先である米穀卸売業者等と協議をして、備蓄米の取引時期(引取時期)の前倒しを推進すると。それから、備蓄米の取引時期(引取時期)の前倒しが可能となるように、運送業者、倉庫業者としっかり協議をすると。そして、取引先からの出荷依頼の増加に対応できるように、出荷体制、輸送体制の強化にも努めると。グループ会社と連携をして、備蓄米からの精米製品の製造及び販売の早期化を図って、取引先の速やかな精米製品の販売などをするようにいたします、という回答をいただいているところです。
自分としましては、私もできるだけ週2回はスーパーに足を運んで備蓄米の調達状況を見るようにしておりますし、テレビも当然見ております。様々なメディアにも接するようにしています。テレビを見ておりますと、お年寄りの、年金生活のご夫婦が、米売り場の前で「この値段では買えない」と言っている姿。お母さん、主婦の方が「子供はお米が大好きだけれども、この値段ではちょっとためらってしまう」と言っている姿。備蓄米を求めて様々な販売所を車で訪ね歩いている姿。そういうのに触れると、やはり何とかしたいという気持ちは、本当に強く持っています。この間も申し上げましたが、そういう方々に対して、政府の財産である備蓄米は国民の財産であります。それを放出するという決断をしたにもかかわらず、最終的に今の段階では、当初の期待された結果が出ていないということについては、やはり申し訳ないという気持ちは持っております。その気持ちを胸に、これからさらに放出は続くわけですから、昨日も夕方までずっと担当局、事務次官にも参加してもらって議論を進めて参りました。なにぶんやったことがない備蓄米放出をやっております。1回目、2回目、3回目と、それぞれ工夫はしてきました。卸からの調達のやり方にも工夫をしてきましたが、さらなる方策はないか、日々検討しております。とにかく、一日も早く備蓄米放出の効果を国民の皆様方が実感していただけるように、さらに努力をしようと思っております。
記者 備蓄米について、本日、備蓄米の買戻し要件の緩和について検討されている旨の一部報道があったのですが、事実関係と見解をお願いします。もう一つが、アメリカによる関税について、先日、赤澤大臣が2回目の対米交渉を終えられましたが、農水大臣として何か報告や指示を受けられていたら教えてください。
大臣 備蓄米の買戻し時期については、国会答弁や議事録を見ていただければわかりますが、私は1年にこだわらないということは、何度も何度も申し上げております。米価が高い水準で維持されている段階で、市場から米を吸い上げるということはありえないということです。公明党、自民党の幹事長の間で、これ(買戻し時期)を延ばしたらいかがかというお話があったということは承知しております。これも報道等で見たわけです。しかし備蓄米は、今、もう30万t出して、(在庫が)60万tという水準にまで落ち込んでいます。国民の安全・安心、備えということを考えると、備蓄米は一定水準を維持するということは本来的な使命としてありますので、これはしっかり守っていかなければなりません。これについては、ご意見をしっかり承りましたので、私もご意見をしっかり受け止めた上で考えます。しかし、当初から、1年にはこだわらないと、担当大臣である私が申し上げているのですから、それについては、一定のお答えはもう既にできているのかもしれません。ただ、森山幹事長や公明党幹事長は、私の尊敬する大先輩ですから、そのご意見は重く受け止めております。
日米のことに関しましては、赤澤担当大臣と私は同級生で、年に3回か4回ぐらいは楽しく酒も飲み交わす中なので、かなり砕けた雰囲気で常に話は聞かせてもらっています。しかし、どのような報告を彼から受けたかということについては、まさに外交の機微に触れることですので、申し訳ないが、お答えすることはできません。ただ彼が、非常に多勢に無勢の中でアメリカに乗り込んでいくわけです。そんな中で言うべきこと、主張すべきことを堂々と述べてきたことについては、友人として立派な態度だと思っております。
記者 先日、石破総理も米の価格が下がらない、(価格を)抑制するための対策を、ということで自民党に対策を考えるように指示を出されたところだと思います。米(価格)が下がらないというのが政府的にも非常に大きな問題になっているということだと思うのですが、農水省としても備蓄米の放出にこだわらない、放出以外の対策を、先ほど質問のあった運用の改善も含めて、どのような対応が今後考えられるのか考えをお聞かせいただきます。
大臣 役所の中では、昨日も夕方まで次官以下、幹部職員全員が大臣室に集まって、ああでもないこうでもないと議論しています。私も毎日、家に帰って、こういうアイデアがあるがどうかと。政策には実現可能性というものが常に問われるのです。アイデアは山のように出ています。役所の中で。こうしたらどうか、ああしたらどうか、私自身も随分たくさんの政策提言を役所に対して出しました。しかし、事務手続的に可能なのか、財政的に可能なのか、法律との整合性はどうなのか、そういうことを検討すると結構大変なのです。私は、国民の財産である、非常時に備えるための備蓄米を放出するということを決断したのですから、この効果を最大限に発揮させるための手立てを考えることが、まずは第一だと思っています。備蓄米以外のところに解決策を今求めるということは、備蓄米を放出しても、あまり意味がないのだということをある意味認めることにもなりかねません。そのことをおそれているわけではありませんが、当初から言われていたのは、量的に足りないから高いのだということに応えて放出を決めました。
色々な報道ベースでは、自民党では「お米券」とか。私が前の大臣ときには「お肉券」というのが出てきて、私はあんなこと言ったことは全くなかったのですが、予算委員会で答弁をするような場面もありました。こういう事態になると、党内からも省内からも色々なアイデアが出てきますけれども、それは出ては消え、出ては消えとするものです。今のところは他に、具体的にこのような方策によって消費者の皆様方のご期待に応えようということは、まだあるとも申しませんし、ないとも申しません。発表できる段階にあるものは何もないということが正確な答弁だと思います。
記者 そうすると、対策を何か別で打つとしても、備蓄米に関するものになるということでしょうか。
大臣 答えられることは今の段階ではありません。
記者 備蓄米の買戻し条件の1年以内という原則について、見直すかどうかということに追加でお伺いします。大臣は「農水省としても1年以内にはこだわっていない。協議次第で延長する」ということは、度々説明していますが、条件上、買戻し期限については、原則として1年以内にするとペーパーとして出しているものがあります。それを見ると、やはり原則は1年以内だろうなということがまずあると受け止められるかと思いますが、そういう原則上というか、ペーパー上でも見直すということをお考えではないのか、お伺いしたいです。一方、現状では入札(分は)すべて落札されているわけで、この条件を緩和したからといって流通量が増えるわけでもないように思いますし、例えば、原則1年以内に買い戻すという条件をなくしたとして、どう効果が発揮されるとお考えでしょうか。
大臣 備蓄米については、そもそも放出することについて、私自身もためらいがありました。何といっても91万tという、マーケットの方から見れば、玉込めできる玉はこれだけしかないということがわかっているわけです。マーケットをコントロールする人たちというのはプロですから、相手の懐具合を見ながらやるでしょう。既に30万t出して、残りは60万tだということも考えるでしょう。今回私がぜひこの機会に申し上げたいのは、もちろん商取引ですから、利益を求めることを追求してはいけないというつもりはありません。ただ、国民の財産である備蓄米を放出したということは、非常事態に対応したことでありますので、このことは、卸の方々についても、商売っけ抜きでご協力いただきたいというのが正直な気持ちです。難しいかもしれませんが。
公文書上、原則1年というものが残っている。それを取っ払ったらいかがかと今おっしゃったが、その次の質問では取っ払っても意味がないのではないかとおっしゃった。まさにそこです。これ(原則1年)を取り払えば、買い戻しはもしかしたらずっと先かもしれないから大変だ、という話になって、持っている在庫を出そうという話になるのか。でも、ならないのではないかと、今、言われましたよね。価格にしても、流通量にしても、我々は局長通達を出し、然るべき人に役所まで来ていただいて(、次官から)要請し、できるだけの努力はしています。とにかく(米を)流してと。国が出したのだから。その分については早く消費者の方々のお手元に届くように協力してとお願いはしております。しかし、法律的な縛りがないので、お願いベースなのです。法的な発表の部分について、1年原則を外すことが、どれほどの政策効果があるのかについては、とても効果があるかもしれないし、もしかしたら意味がないのかもしれない。日々役所も、もちろん大臣である私も、何がベストなポリシーメイキングなのか、相手がマーケットである以上、非常に難しいです。マーケットはコントロールできません。コントロールする気もないです。その答えについては、もう少し先になるかと思っています。そういうご指摘があるということは重々承知しています。
(以下略)