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【iNSIGHT飯稲米】備蓄米流通で「卸の利幅大きい」と江藤農相

 江藤拓農相は5月16日の閣議後定例会見で、政府備蓄米の流通に際して卸売業者の「利益の幅が大きい」と指摘、「国民の財産である備蓄米を放出している。通常のお米のディールとは違うのだということを是非ご理解いただいて、できる限り企業努力をしていただければ」と、やんわり釘を刺した。ただ農林水産省が算出したのは、卸売業者の販売価格から仕入価格を単純に差し引いた「経費・利益等」で、丸々利益というわけではない。しかも比較対象が令和4年産のため、この間の諸経費増嵩が勘案されていない。とはいえ卸売業者側は、何ら反論の声をあげていない。

 江藤拓農相は5月16日の閣議後定例会見で明らかにしたのは、既報の「米の流通安定化に向けた対策パッケージ」。このなかで隔週公表している政府備蓄米の流通実績(3/17~4/13)に、集荷段階と卸段階の「経費・利益等」を明確化した。
 それによると、卸から小売への販売単価60㎏33,111円(精米歩留まり90%で単純に玄米換算)から仕入単価60㎏22,207円を差し引いた卸の「経費・利益等」を60㎏7,593円とした。農林水産省の調査結果によると令和4年産米の「経費・利益等」は60㎏2,206~4,689円だから、確かにこれだけ見ると、あたかも「儲けすぎ」であるかのように見える。だが前述した通り、この間の運賃、包装代、搗精経費(電力や人件費など)の増嵩が考慮されていないため、やや公平性を欠く。また米穀卸が「利のない商売」であることは、業界内では諦観を込めて常識化しており、この点でも企業努力を求めるのはやや酷と言える。
 とはいえ少なくとも今のところ卸側は、2つも全国団体がありながら何ら反論していない。また政府備蓄米の売渡入札にあたって、集荷業者ではなく卸売業者に直接放出すれば、より迅速な流通が叶ったものを、当の卸売業者が「馴れていない」ことを理由に断っている。こうしただらしのない、非協力的な姿勢から、卸が叩かれるのも、無理からぬことだとは言える。

一問一答(5月16日、閣議後定例会見から抜粋)

 大臣 本日、私から1点、ご報告があります。4回目の備蓄米の入札を今月28日から30日にかけて行います。これまでは、会見で発表してから1週間後に公告を行ってまいりましたが、今回は内容を大きく改めておりますので、より多くの方々に入札にご参加いただけるように、1週間早く、本日公告を行うことといたします。その内容をご説明させていただきます。
 まず1点目は、備蓄米の流通の円滑化です。今後、売り渡される政府備蓄米ができるだけ早く、かつ広範に消費者の皆様方の手に届けられるよう、あらかじめ販売される小売店を決めた上で、入札に参加していただく仕組みを導入いたします。具体的には、集荷業者が卸を通さずにあらかじめ計画された小売店に直接販売するもの、集荷業者があらかじめ計画された卸・小売店に販売されるものについて、入札の優先枠を設定することで、備蓄米がよりスピーディーに消費者に届くようにいたします。また、すでに解禁している卸間売買を活用した流通や、全農の販売計画の前倒しを一層進めることで、備蓄米の流通の円滑化を進めてまいります。
 2点目は、備蓄米も含めた、米の供給の強化です。これまでは入札の都度、数量を決めておりました。しかし、これからは、5月は10万t、6月10万t、7月10万tといたします。なお、5月の10万tの内訳につきましては、(令和)6年産が1万t、5年産が1万t、4年産が8万tとなります。また、買戻しにつきましては、予定される備蓄米の売渡数量が全体で60万tに及ぶことを踏まえ、買戻し期間を原則5年に延長いたします。そして当面買戻しは行いません。さらに、7年産米については、今後の需給環境が大きく変化しない限り、延期していた備蓄米の買入れを中止いたします。加えて、7年産米の各産地の増産の状況をタイムリーに、これからは発信してまいります。
 3点目は、消費者への丁寧な情報発信です。引き続き、毎週のスーパー店頭価格を公表することは当然ですが、最近増えてきております、ブレンド米のシェア、価格の情報をあわせて公表いたします。さらに、集荷業者や卸売業者の各段階の経費・利益等を公表することなどによって、情報発信の充実を図ってまいります。これらの運用改善によって、政府備蓄米について、消費者の皆様方への迅速な供給を行い、米を安定的に供給できるよう努めてまいります。私からは以上です。

 記者 ご説明いただいた備蓄米の放出に関する改善策について、改めて、そのねらいと、流通が遅いとの指摘もある中で、こうした対策をとることで期待されることをお聞かせいただければと思います。

 大臣 シンプルに、どうすればより円滑に、そしてよりスピーディーに、より広範に、いわゆる大手のスーパーさんだけではなくて、町の小さな個人経営のスーパーであったり、町のお米屋さんであったり、そういったところまで備蓄米があるという状況を作るためにはどうしたらいいか、ということを検討した上で決めたということです。

 記者 これまで出した31万tに加えて、今回7月まで10万tずつ、合わせて61万t放出予定ということになれば、備蓄米の残りの水準が30万t程度になるかと思います。さらに買戻し期限の延長や、新規の買入れの当面中止ということも踏まえて、今後大きな災害や凶作の場合に、食料安保の観点でどのように対応されていくのか。すでにこれまでもMA米の活用などを言及されていたかとは思いますが、大臣の中で何か他のお考えもあるのかも含めて、改めてお聞かせいただけますでしょうか。

 大臣 国会の中でも、この点については議論になりました。国民の皆様方の食の安全のために、1.8か月分しかありませんが、100万tでも、それを維持するということは国民への約束ですから、これが極端に減ってしまうということは、正常な状態ではないということは間違いないことだと思います。それが備蓄米を放出すること自体を決断することへの一つの迷いでもあったわけです。今あなたからお話がありましたように、食料供給困難事態法の基本方針もできておりますので、差し当たりは備蓄米に加えてミニマム・アクセス米を使えば、これまで経験した災害であれば、十二分に対応可能です。東日本大震災で使った備蓄米が4万t、そして熊本の震災のときは90tですから、大丈夫だと思います。しかし、何が起こるかわかりません。今の時代は。できるだけ早く備蓄米の水準を戻したいと思いますが、これを急ぐあまり市場の価格上昇の一つの要因となっては放出した意味がありませんから、これについては慎重にやらざるを得ないというのが、私の今の思いです。

 記者 今回、来年産、今年産について見れば、備蓄米が買い戻されるという前提で増産計画を立てている農家さんもいるのではないかと思います。需要と供給の関係で。また、(買戻し期間が)今後5年間ということになりましたが、いつ買い戻されるかわからないという中で、需要と供給がなかなか見通せなくなるのかなと思います。生産者に対する生産への影響はどのようにお考えでしょうか。

 大臣 それは、私は全くないとは申し上げません。しかし、買戻しがあるということが、一部の卸の方々にとっては、集荷業者との関係上、自分の部分について食われる可能性があるのではないか、様々な懸念がありました。それが、集荷から卸にしっかり流れない一つの理由であったということは間違いないと思います。今回の備蓄米の放出の主な目的が、やはり量的に十分な量にして、最終的には消費者の方々のご期待に応えるということでありますから、今後、この米価がどうなるかは、本当に注意深く見る必要あると思っています。そして今回の買戻し要件の見直しを、農家の方々がどのように受け止めるかも、しっかり見る必要があります。しかし、60万tを1年原則というのは、物理的に無理です。それをやったら確実に米価が上がります。それをじゃあ農家が望んでいるのかというと、私はそうではないと思います。農家の方々が望んでいるのは、自分たちの生産コストが十分に賄われて、そして消費者の方々にも米離れを起こさないでいただきたい、というのが農家の思いですから、慎重に行うことによって、農家の不安は払拭できると私は思っています。

 記者 今回の一連の改善策を踏まえて、これから端境期に向かう中で、一部のスーパーなどで品薄感というような声も聞かれています。こうした一連の改善策が、いつ頃、どのような形で効果が出始めると、ご期待なさっているか、お聞かせください。

 大臣 今も申し上げましたが、卸の中には1年以内であれば、いよいよとなったときに、集荷業者の方から「少しあなたの分も考えてね」というようなことを言われて、若干躊躇するような世界があったことは事実です。しかし、5年という長いスパンになれば、まずその不安は払拭される。そして、毎回毎回、市場の状況、備蓄米がどれぐらい消化されているか、そういうものを見ながら数量を決めようと思っておりましたが、これから先、毎月10万t出るということがギャランティーされれば、全体の数量の見通しが立つわけです。ということであれば、端境期に向けての品薄感というものは、私は解消されると思っております。そしてご存じのように、テレビでも随分報道していただいておりますが、飼料用米の作付面積が大幅に減っています。そして、主食用米の作付面積は、今まで休んでいた田んぼまで主食用米を作るという傾向があります。今の段階で、大体30万tぐらい増えるのではないかという予想になっておりますが、さらに増えるという予想です。ですからこういうことを考えると、品薄感というものは、去年言われたように、新米が出れば安くなりますというようなことは申し上げません。それは、様々な地方において概算金が少しずつ出てきています。(60㎏)22,000円とか23,000円、24,000円です。概算金だけではなくて、精算金を乗せれば、さらに上に行くわけですから、それから類推した米価がいくらになるかは、皆様方が計算すればすぐ分かると思います。そういうことを考えると、様々これからありますが、今回の見直しによって、この優先枠については、卸を通さないということになれば、その部分の時間とコストは確実に削られるわけです。確実に。ですから、その部分において、より消費者の方々のご期待されるような価格、スピード感で出せるようになることを、ぜひ期待しております。

 記者 そうした価格の安定というところについては、どの程度の期間から出てくるかなと見通されていますでしょうか。

 大臣 申し訳ないのですが、断定的に申し上げることはできません。これは民間の流通と販売の世界でありますので、国が直売をするということであればそういう話もあるかもしれません。しかし、今回はスピーディーになるために売り先を前もって決めてくださいという優先枠を作るわけです。ということであっては、集荷をしてから申込みを受けて契約を結んで、そして売るということではなくて、集荷した段階で売り先が決まっているわけですから、その分、タイムギャップは相当縮小される、スピーディーになるということは当然です。ましてや小売の優先枠については、卸という段階を省くわけですから、そうなると相当早くなる。そして値段についても、集荷業者の方々が取っておられたコストの部分、流通経費と利益の部分、これがないわけです。価格も下がるだろうと。机の上で考えれば、当然私は下に向かってくれるのではないかと思っています。
 そして、先ほど申し上げましたように、今回は(令和)4年産米が主力です。このあいだ試食していただいたように、メディアの方々も4年産が一番美味しいという方々が一番多かったぐらいですから。品質には全く問題がありませんが、4年産であることは間違いないのです。ということであれば、これは入札ですから、入札価格はどうなるかについて予断を持って言うことはできませんが、常識的に考えて、前回よりも入札の落札価格自体も、少し下に向かってくれるのではないかと、私としては期待しています。

 記者 このタイミングで、米の流通安定化に向けて追加の対策を発表したという形になりましたが、これまで31万t放出してきた根拠として、農水省で3月に公表された、お米の流通状況調査で、集荷業者の不足分が例年より31万t足りてないということで出してこられたわけですけれども、それはもうすでに埋まっているわけです。改めてなぜこれが埋まっているのに、流通が安定化しないと考えているのか。3月の農水省の調査が、一部では調査が甘かったのではないかという指摘もありますが、改めてお米の流通調査をするという考えはないのかというのも含めて教えてください。

 大臣 改めてということは考えておりません。調査が甘かったというご指摘があるということであれば、それは一つのご指摘として受け止めます。たしかに31万tは埋まった。しかし、卸の方々も、ご自身でかなり高い値段で仕入れている部分がある。そして備蓄米と混ぜることによって販売価格を下げることができる。そういうこともあるのかもしれません。卸はそれぞれです。500社、600社おられるわけです。卸だけでも。そういう方々のことを、全部、皆がこうですと評価することは不可能ですから、できませんが、しかし、たしかに量的には埋まっているという話にはなるのでしょう。という話をしてしまえば、私どもは、前年度よりも18万t多く生産者にお米を生産していただけていますということを申し上げていて、新しいプレイヤーに44万t流れているということはあるにしても、従来の集荷業者に集まっている米が少ないにしても、全体のロットとしては十分にあるのだという説明をしてきました。だったら、今のご指摘であれば、31万tを出したこと自体に理屈が通るのか、というご指摘にも多分なるだろうと思います。民間の話でありますし、当初から申し上げておりますように、今回、これが一つのビジネスチャンスだと思った人たちがいることも事実です。これまでの米の流通とは違う状況が生まれた結果ですから、それをできるだけ正常化するために、夏までに品薄感が出ると、米を扱う方々が言うのであれば、「そんなことはありませんよ」と「ちゃんと品薄感が出ないように、政府としては備蓄米を供給しますよ」と言うことが、正しい選択だということにしたわけです。

 記者 今回から、備蓄米の流通の過程で、卸が利益を上乗せしていると公表されました。4回、5回、6回と卸を挟んで流通していく過程もあると思うのですけれども、大臣として、ここの部分にどのように価格の低減を求めていきたいですか。

 大臣 民間の取引に、政治がああしろ、こうしろというのは、基本的にはまず間違いです。卸の方々も、流通経費もありますし、精米の経費もありますし、袋を発注する、袋詰めをするという経費があります。一定の値幅を取る。このマージンを取ることは理屈にかなっております。ただ、我々が行った令和4年の調査と比較すると、あまり攻撃的なことは言いたくないので、具体的な数字を避けますが、それと比較すると、備蓄米を扱っているときのコストと、利益の幅は大きいというのが事実です。今回、国民の財産である備蓄米を放出している。通常のお米のディールとは違うのだということをぜひご理解いただいて、できる限り企業努力をしていただければ、私はありがたいと思います。
 今回は、卸を通さないラインを作るということでありますので、これを通さないとどれぐらいの値段になるのかということを、国民の皆様方にも知っていただく一つの機会になります。決して卸が悪いというわけではありません。色々な議論を我々はしてきました。随分ご批判もいただいておりますが、米の議論を大臣室でしない日は一日もありません。本当に夜遅くまで議論してきました。例えば、集荷業者、JA(農協)を外すことはできないのか、いきなり卸に渡せないのか、もっと極端に言えば、卸も集荷も省いて、いきなり小売に渡せないのか。あらゆる可能性を探りました。しかし、政策には、実現可能性というものを必ず追求しなければなりません。理念はいいけど、現場が混乱してできなくなってしまうということでは意味がない。そして、大手の卸の方々にお話をしても、無理ですと。そんなことを言われても、我々は集荷なんかしたこともないので、それは我々のキャパを超えていますということでした。小売の方々にお話をすると、我々は店頭で3日、4日売れる分のお米を、定期的に途切れなく届けてくれることを望んでいるのであって、いきなり玄米を何万tも渡されても、置くところもないし、精米もできないし、袋詰めもできませんと。受けられませんということです。様々なご批判もありましたが、その中で今回の見直しは、結構ギリギリのところを狙ったつもりです。

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