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放れ駒

【放れ駒】お役所のネーミングセンス

 農林水産省が、米の作況指数に代わる新たな豊凶指標の名称を「作況単収指数」に決めた。
 新旧ともに単収(10aあたり収量)の高低を指す名称だ。違うのは、比較対象となる平年単収を、30年とる(作況指数)のか、5中3平均(作況単収指数)とするのか、だ。この違いは、名称の違いには全く反映されていない。

 そうではなく、旧「作況指数」だと収穫量全体の多寡と〝誤解〟されてしまうため、あくまで単収の高低だけを表す指標ですヨということを強調するため、こういうネーミングになったわけだ。それにしては「単収」を間に挟むだけというのは、あんちょ……いやいや。まぁこのへんが「お堅い役所」の限界なのだろう。

 今回、もう一つ新たに改められた名称がある。「くず米」を「1.70㎜ふるい下米」に改めたのである。作況調査の調査票に書き込む項目名を変えるだけだから間違っていないし、センスを求めるのは酷な話だ。もしもこれが世間一般に広く知らしめる改称だった場合、間違いなく猛反発が起こる。そもそも「くず米」という単語に数値的な定義がないからだ。

 要は主食用に不向きな大きさの粒を指しているのであって、1.7㎜より上でも「くず米」の範疇に入る。産地ごと、扱う業者ごとに用いる篩目幅が異なるので、これで区分してしまうと不公平になってしまう。もっとも、イメージの芳しくない言葉なので、業界団体では「特定米穀」という用語を推奨しているが、根拠としている制度は今や存在しないし、いちいち説明が必要な用語が普及するとも思えない。「くず米」は、やはり今後とも「くず米」のままであり続けるのだろう。

 ところで。思い返してみれば、「お役所のネーミング」がセンスを疑われた例は、結構ある。

 平成5年(1993)の大凶作によって緊急輸入した外国産米が売れ残った。仕方なく国産米とセットで売ることを義務づけたのだが、その手法を「協調販売」と称した。当時のマスコミ受けは芳しくなく、「抱き合わせ販売」と表現された。どう考えても後者のほうが実態を捉えている。

 回転備蓄の時代、平成13年(2001)頃の話。政府備蓄米(古米)に「たくわえくん」と愛称を付けて売ったことがあった。もちろん、そんなことで売れるわけがない。今では堂々と「政府備蓄米」と表示したほうが売れる。まぁ価格が安いから、ではあるのだが。

 同じ時期、農産物検査で1等に格付された米に優位性を持たせるため「粒ぞろい」と命名しかけたことがある。農産物検査の格付は主に整粒歩合で、1等は70%以上だから、意味として間違ってはいないはずだったが…。パブリックコメントでは、反対意見が相次いだ。反対理由の1つは「1等米にメリット表示を与えるのではなく、低品位の米にデメリット表示を義務づけるべき」というもの。仮にメリット表示が普及した場合、表示していないと低品位とみなされかねない。「なぜ高品位米側に表示コストを負担させるのか。低品位側にその旨を表示させる義務を負わせろ」というわけだ。反対理由のもう1つは「『粒ぞろい』という言葉と1等米とがイメージ的に一致せず、分かりづらい」。結局この案は撤回された。

 最終製品に米の産地名と品種名を表示するには、農産物検査の受検が必須だった時代がある。だから産地名も品種名も表示できない未検査米は、ほとんどが外食や中食といった業務用に仕向けられていた。ところが平成23年(2011)に完全施行された新法によって、産地名の表示が義務づけられた。未検査米であっても産地名だけは表示できる――というか表示しなければいけない。食品表示法、ひいては農産物検査法と矛盾してしまう。やむを得ず未検査米の産地名欄には「○○県(産地未検査)」と表示させることにした。10年でデメリット表示が実現したわけだ。だが、もちろんデメリット表示して米を売ろうと考える業者など存在しない。「国産」と書けば「産地未検査」と併記しなくてもいいので、未検査米は軒並みこの手法を採った。10年後の令和3年産米(2021)から、根拠書類さえあれば未検査米でも3点セット(産年・産地・品種)表示が認められた。これにより「産地未検査」も自動的に死語となった。

 今では笑い噺の類かもしれないが、当時の方々にしてみれば不利益を被ることになりかねない大問題だ。お役所のネーミングにセンスを求めるほうが間違っているのかもしれないが、せめて害が生じることだけは回避して欲しいと願うばかりだ。例えば……外務省(JICA)の「ホームタウン」とかね。

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