古酒、なら聞いたことがある。いわゆる熟成酒だ。一般に味がまろやかになるとされる。実際に、大蔵省(当時)の鑑定会で口にしたこともある。だが「古米酒」となると、聞いたことがない。一般に「5年を経過した古米は酒造りに不向き」とされている。それが、誕生した。令和2年産の政府備蓄米を100%原料に醸した純米酒、その名も「大盃 古古古古古米 令和2年産備蓄米」。1月28日に発表なった5年古米酒は、ラベルにニワトリをあしらっている(分かりますよね?)。フザケているのかと思いきや、牧野酒造㈱(群馬県高崎市)は5年古米を原料とした日本酒づくりを、むしろ「未知の原料への挑戦」と捉えた。
政府備蓄米は現行制度上、5年間にわたって保管され、何事もなければ5年前の在庫から順に家畜飼料に回される。したがって平時であれば、人間が口にすることはない原料だ。それが「令和の米騒動」に伴い、思いがけず随意契約によって放出された。酒蔵が5年古米を入手することは、二度とないかもしれない。貴重な機会だ。発表のなかで牧野酒造は、「この『未知の原料』を最高のお酒へと昇華させるべく立ち上がった」と説く。
一般に「5年を経過した古米は酒造りに不向き」とされているのは何故か。牧野酒造は、酒類総合研究所(広島県東広島市)に成分分析を依頼した。その結果、古米になればなるほど、カリウムの含有量が増加する傾向にあることが判明した。カリウムなどの栄養成分は、米の外側(表層)に多く含まれ、これが多いと酵母の増殖が過多になり、「旨味が少なく、ドライで味気ない酒」になりやすい。
ならば精米歩合を上げる、つまりカリウムを多く含む表層を、より大きく削ってやればよさそうなものだが、それは、かねてから米をあまり削らない純米酒醸造に長けてきた牧野酒造のプライドが許さなかった。

「米の溶解を促す『麹造り』と酵母の活動を導く『発酵管理』を、備蓄米の特性に合わせてゼロから再設計。蒸米の水分調整から秒単位で管理を徹底し、試行錯誤を繰り返した結果、古米特有の硬さを解消。むしろ古米ならではの深みのある旨味を引き出すことに成功した」という。
何でも、牧野酒造の杜氏が「これなら自信を持って世に出せる」と太鼓判を押したのだとか。まさに「技術の結晶と言える仕上がり」だ。
精米歩合は、日本酒としては高い(つまり、あまり削っていない)70%。結果的にアルコール分は14%と低く抑えた。720ml、消費税込1,760円。3,000本限定で5月発売予定。
