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【iNSIGHT飯稲米】令和6年産米の「適正価格」は?

 米価高騰――だそうである。いくらなら納得するのだろうか。既報の通り、去年まで生産者の出荷価格(農協の集荷価格)はコスト割れを起こしていたのだから、「去年の今頃くらい、5㎏2,300円ほど」といった声は、明らかな無理難題にあたる。ならば令和6年産米の価格は生産から流通にかけてのコストを〝適正に〟反映した結果かというと、それも違う。「今」の「適正価格」を弾き出してみよう。

間違いない「米価高騰」

 まず、やや長期的に、去年までの店頭価格の推移を見てみよう。昭和45年(1970)から、総務省「小売物価統計調査」結果から、店頭の5㎏あたり精米価格の推移をプロットしてみた(下図の青線)。これに物価増減率(消費者物価指数)を反映させたのが、下図の赤線だ。これによると、令和6年(2024)の店頭価格は5㎏2,846円。実はこれでも過去最高値ではない。「平成の大凶作」の翌年、平成6年(1996)を物価修正すると、3,346円になる。だから今の4,557円(3月)という水準は、確かに「高騰」と言える。言うまでもないことではあるが。

「適正価格」は5㎏3,127円

 令和6年産米の価格が高騰した最初のトリガーは、農協が集荷価格を引き上げたことにある(既報)。少なくとも過去20年以上にわたって、常に生産費を下回って推移してきた集荷価格を、いきなり「生産費を賄える水準」に引き上げた点の是非は置いておくにしても、実は令和6年産米の集荷価格は、それ以上に上がってしまっている。集荷競争に勝利するためなのだが、実際には集まっていない点が、その先の相対価格を引き上げる要因になってしまっている。さらに、その先の流通経費も、物価高騰の煽りを等しく受けている。結果として「高騰」店頭価格を生み出したというわけだ。
 では、いくらが令和6年産米の「適正価格」なのだろうか。言い換えれば、生産から流通までのコストと利益を「適正に」反映した店頭価格は、いくらなのだろうか。この点、実はすでにいくつもの「答」が出ている。

 上図は、農林水産省が有識者会合に示した「米(全国平均)のコスト調査結果」(2月4日)だ。ただし令和4年産米のコストを積み上げた1㎏あたり価格になってしまっている。つまり2年間の物価やコストの上昇幅が加味されていない。ここから、独自に令和6年産米の「適正価格」を弾き出した例が、いくつかある。
《A新聞(一般紙)》5㎏2,265円。上図を物価修正したものだが、理屈としておかしい。コストも物価も上がっているのに、去年の水準を下回ってしまっては「適正」とは言えない。論外である。
《B新聞(専門紙)》5㎏2,918円。同じく上図を物価修正したものだが、部分的なものに留まっている。現行の相対価格の上に物価修正した流通経費を乗せているのである。農協系の専門紙なので致し方ないのだが、あたかも中間流通が不当利益を獲得したかのような論調は如何なものか。
《C新聞(ネット媒体)》5㎏3,300円。全く異なるアプローチ。小麦価格の上昇率と合わせたもので、消費減退を避ける意味あいも含めている。分かるのだが、アバウトに過ぎる。
 当方でも独自に算出してみよう。本来とどまるべきだった「生産費を賄える集荷価格」は、全農が独自に弾き出している。この令和5年産米から令和6年産米への上昇率を、令和5年の平均店頭価格に乗じ、物価上昇率を加味すると、5㎏3,127円となる。

令和6年産生産費(全農推計、60㎏あたり)15,886円
令和5年産系統概算金の平均(60㎏あたり)11,861円
上記の変化率133.934744%
令和5年の消費者物価指数105.4
令和6年の消費者物価指数108.5
上記の変化率102.941176%
令和5年の物価修正後・店頭価格(5㎏)2,268円
令和6年産「適正価格」(5㎏)3,127円③×①×②

そして需要減退⇒需給均衡へ?

 いずれも今の4,557円(3月)を大きく下回る結果となった(A新聞は論外)。今回の政府米放出によって、この「適正価格」まで下がることはあり得ない。導き出される行く末は、需要の減退だ。ひょっとすると、結果的に需給均衡すらあり得る。こうなると次の焦点は、令和7年産米の集荷価格水準になるが、既報の通り、すでに全農新潟県本部が集荷価格のさらなる上昇を打ち出している。

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