江藤拓農相は4月25日の閣議後定例会見で、米価高騰の背景としての〝流通の目詰まり〟が卸売業者段階にあるとの見解を改めて示した。ただ意図的に隠し持っているわけではなく、政府備蓄米放出以前に「高い値段で買い入れている」ため、「小売に出しづらくなっている」と、一定の理解を示している。記者の「私どもで卸売の組合に取材をしたところ、『通常の7割しか仕入れられておらず、我々のところにもない』という旨の発言があった」との指摘に応えたもの。
一問一答(4月25日、閣議後定例会見から抜粋)
記者 日米の関税交渉について、今月中に2回目の交渉が予定される中で、先日の衆議院農林水産委員会では、農水省からの幹部の帯同は今のところ考えていないと答弁されていましたが、今日の時点でもその方針に変わりはないのでしょうか。また、2回目の交渉に期待することについてお聞かせいただければと思います。
大臣 農林水産省として幹部職員を帯同させるかどうか、まだ全く決めておりません。赤澤大臣におかれましては、色々と情勢は変化をしております。米国の中国に対する態度にも変化が見られるところでありますから、日々変化するこの状況に対応しながら、日本の国益、まずはこの関税を取り下げていただくということを基本に、タフな交渉をしていただきたい。それに尽きると思っています。
記者 米の高騰について、今の高騰の背景を、卸がたくさん持っているが出てこない、出さないのだという旨の発言をしたと思うのですが、私どもで卸売の組合に取材をしたところ、「通常の7割しか仕入れられておらず、我々のところにもない」「そもそも生産量が足りていないのではないか」という旨の発言があったわけです。大臣の認識と差があると思うのですが、その点はいかが受け止めていますか。
大臣 我々は、推測に基づいて言っているわけではありません。多分、御社よりもきめ細やかに調査をかけています。まず、生産量につきましては、全国8,000か所で、ここで調査をしますと決めます。委員会の中でも、出来のいいところだけ調べたのではないか、というような指摘もありましたが、例えば、この田んぼであれば事前に田植えの前から、ここと、ここと、ここで坪刈りをしますということを決めて3か所、調査をしていますので、この調査結果に狂いはほとんどないと思っています。
記者 私たちが取材した卸売業者の組合というのは、100の業者が参加している組合だそうです。これは規模としてはかなり大きいと思うのですが、いかがですか。
大臣 私たちは先日、卸の方々、大規模、中規模、小規模の方々に来ていただきました。それぞれの方々が、会員メンバーの方々にそれぞれ聞き取りをした上で、意見交換会に参加していただきました。その場では、確かにそういう方もいらっしゃるけれども、そういう方が大宗である、というようなご意見はなく、(米は)たくさんありますという方もいませんでしたが、ないということではなくて、高い値段で買い入れているということです。卸の方々が高い値段で買い入れれば、当然、小売には安い値段で出せませんので、価格が一つのネックとなって、なかなか出しづらいということはあると思います。
記者 大臣の発言だったと思うのですが、今の米の生産は自由だという発言をなさっています。これには少し違和感があります。米農家のいわゆる生殺与奪というか、ある時は生殺与奪を政府が持っていたと思うし、ある時は政府に守られて、そのために、米農家はずっと自民党を支えてきたわけです。そういった中で、減反政策に始まり、陰に陽に生産調整をやってきたわけですよね。それが今になって、米をやろうがやるまいが自由だ、みたいな発言は、僕には違和感しか覚えないのですが、いかがですか。
大臣 まず、生殺与奪権を国が持っているというのは、あまりにもひどいと思います。我々は、農家の方々と常に意見交換をしながら、どうするのが一番、生産現場にとって良いのか、それに基づいて政策を組んできたつもりです。我々が、あたかも農家を弄んできたかのような言い方は、慎んでいただきたいと思います。生産調整についておっしゃいますが、平成30年に、生産数量の割当ては完全にやめました。それまでは、この県はこれだけの米を作ってくださいということをお示ししておりましたが、平成30年以降は、食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)に基づいて、来年はこれぐらいの消費量が国内にあると思われますと。これを参考に、各県の皆様方が独自に判断をされて、生産数量を決められたらいかがですかと、我々は、データをお示しして、地域の生産計画を立てる上でのお手伝いをしてきたということであります。
減反政策を続けてきたと大合唱されていますが、減反政策というのは、強烈なペナルティーを農家に課して、国の言うことをきかなかったら、こういうひどい目にあわせるというものです。具体的に言うと、あなたの県はこれだけ減反し、できなかったら次の年はさらに上乗せをして減反命令をしますと。できなかったら、国の補助事業の採択もしませんよという極めて厳しいペナルティーを課した上で、政策を進めたのが減反政策です。それは間違いないでしょう。私たちがやってきたのは、今は米価が高くて、消費者の方々がご苦労されていますけれども、ずっと米が安いということが、政策の中で農家を一番苦しめてきたことです。毎年10万tずつ(需要が減って、)人口は減っていく、高齢化が進んでいく、国民の胃袋はシュリンクして小さくなっていく。その中で、農家の方々には、今後どうなるのだという見通しは示さなければいけない。それが、我々が食糧法に基づいて示してきた数字です。米以外のものをやろうと農家が思ったときに、国が支援しないのか、食料自給率の低い麦や大豆に農家の方々が転換しようと思ったときに、国は一切、手を貸さないのかと言ったら、手を貸したほうがいい。食料自給率の向上にも繋がるわけです。ですから、米や大豆、畑作に転換することを国が支援したことを、減反政策だとおっしゃりたいのだと思います。農家の方々にとって、今後農業で生きていくために、米を続けていって大丈夫なのかと思う人もたくさんいたわけです。今年だけを見れば米が高いですから、もっと作るということを望んでいる国民も多いと思います。これまではずっと、国内の需給に合わせた生産をしないと、とても米農家はやっていけないという声に応えて、転作する方々については、このようにしようと。しかし、この政策も令和9年から水田政策の抜本的な見直しをすることに決めました。水田政策も新しいステージに入って、作物ごとの支援策に変えていく。
記者 私は元JAの会員で、みかん屋の息子です。減反政策によって、米からみかんに変えるのは、特に九州の方が多かったですが、大打撃を受けた経験もある。私自身ではないですが。
大臣 それはかつての減反政策ですよね。
記者 そうです。米は、安定供給と価格維持というか、支持というか、そこら辺をずっと前面に押し出してやってきました。それが今この状態というのをどう見ますか。
大臣 国政に関わるようになって20年ですが、このようなことが起こるのは、本当に驚いています。確かに昨年は南海トラフの臨時情報が出たり、様々な台風が襲ったり、夏は非常に高温で、厳しい状況になったり、様々なことが重なりました。私が大臣になったのが昨年の11月ですが、その時点で大体3,900円ちょっとくらいでした。その時点からこれは異常な事態だなという認識を持った上で、大臣になりました。何度も申し上げておりますが、行政は、価格にコミットするというのは正しくありません。この経済の中において、物の値段は米に限らず、工業製品も含めて、市場で決まるというのは大原則です。特に、米は主食ですので、これに国がどう関与するのか。量が足りないというエビデンスが出ました。21万t集荷ができていない。44万tを新たなプレーヤーが持ってらっしゃると。集荷業者、卸とはまた別のセクターです。44(万t)と言うと6%強に近いです。6%強を新しいプレーヤーが持っていると。これは今まで経験したことのないことですから、今回は異常事態に対応するために、備蓄米を出すしかないという判断をしたわけであります。ただ、備蓄米には果たすべき使命があります。国民が本当に危機的な状況になったときにも国が安定して、1.8か月分しかありませんけども、100万tでも。それを持っていることによって、国民の生命・財産を守るという使命があります。最初メディアの方々も、私のところに来て10万tですかとか、5万tですかとか言われました。21(万t)と言った方は一人もいなかった。思い切って出したつもりですが、それでも、価格にはコミットしないと申しましたが、結果はなかなか出ていないです。この流れはすべて終わっていません。おっしゃったように、卸の方々のところにお米がない、新米が出てくるまで在庫がもたないかもしれないというご不満・ご心配を持っていらっしゃるということであれば、これもまた異例なことではありますが、7月まで、出来秋までは、毎月、量は決めていませんが、状況を見ながら(備蓄米を)出します。これによって、在庫を持っていらっしゃる方々も、この44万tの世界の人たちがいますから、通常の卸の方々の他に、この方々も、市場に出そうという気持ちになっていただけないか。市場はコントロールできないです。しかもマーケットが小さい。小さいマーケットに、備蓄米を出すことがどういうことかは、正直言って、最初は胃に穴があく思いと申し上げたことありますが、ずっと穴があきっ放しです。ですが、政策決断をした以上は、結果にコミットしなければなりません。様々な発言をしたわけですが、このような状況については何とか解消したいという気持ちは強く持っています。
記者 25年産(令和7年産)の備蓄米買入れが停止されていることから、北海道のJAグループは、25年産(令和7年産)は備蓄米を作らないと決めました。この動きが北海道だけにとどまらない可能性もあり、延期されている備蓄米の買入れが再開されたときに、年間の目安の20万tに届かない懸念はありますでしょうか。そもそも25年産米(令和7年産米)での備蓄米買入れで、これまでと制度を変更されるお考えなどはございますか。
大臣 その報道は私も見ました。備蓄米は産地の指定をそもそもしておりませんので、まずそのことを申し上げておきたいと思います。北海道のJAさんがそういう判断したことは、独自のご判断ですから、それはそれと思っています。備蓄米の確保につきましては、(令和)7年産の買入れは延期いたしました。(令和)2年産の備蓄米の飼料用への販売、いわゆる棚上げ備蓄なので、棚上げ分の、飼料用米への販売を当面見合わせております。それによって、備蓄米の水準を維持していこうと考えております。このことは、飼料関係団体の方々にもご説明は済ませております。今後、国民のために100万tの水準は維持しなくてはならないと思いますが、備蓄米の買戻しも含めて、これからの状況を見ながらやらねばなりません。今の状況のもとで、市場から国が大量に現物を吸い上げるということになれば、それはまた、これまでのやってきたことと逆向きの影響が出ることも考えられます。このことは、両にらみでしっかり取り組んでまいりたいと思います。
記者 いつごろ買入れを再開されるというのは。
大臣 まだ決めておりません。
記者 日米関税交渉の話に戻りますが、初回の交渉でアメリカ側もいくつか農産物を挙げて、農産物に関心を示す姿勢を示しており、次の交渉でも議題に上がる可能性もあると思います。先ほど大臣から、国益にかなうように交渉をお願いしたいというお話がありましたが、農林水産省として、この農産物の関連でどのように対応していくのか、お考えをお願いします。
大臣 まだ何も決まっておりません。大豆がどうしたとか、肥料、りん安がどうしたとか、様々な報道が出ることについては、遺憾とか、間違っているとか言うつもりはありませんが、農林水産省として確たるものを決めているわけではありません。これは何度も申し上げておりますが、5年前に日米の間では貿易協定を結んでおります。農林水産委員会でも答弁させていただきましたが、マンデートを握っている大臣として、雑巾が、からからになるというところまで、絞りに絞って、ぎりぎりの案を米国に提示して、妥結に至ったのが日米貿易協定だと思っておりますので、これがベースであり、岩盤であるという考えに全く変わりはありません。
記者 次の交渉についても、その考えのもとでということですか。
大臣 私は農林水産大臣です。食料・農業・農村基本法を改正し、基本計画を作りました。これからの5年間で、食料自給率の向上を図り、これから減っていく農業従事者の方々に対応して、農地の大区画化も図って、様々な生産性の向上を図っていこうというときに、マイナスになるような施策を、たとえ外交交渉ということであっても、それに背を向け、逆噴射をするようなことは避けるべきだと強く思っています。
記者 認証制度のASIAGAP(アジアギャップ)について、農水省としても取得を後押ししてきたASIAGAPが、令和10年(2028)で終了するということが先日発表されました。輸出に有利になるというお考えを持って取り組まれている方も多くいらっしゃって、影響を心配する声も上がっています。こちらに対する受け止めと、今後の農水省の方針についてお伺いしたいと思います。
大臣 ASIAGAPをやめるというと、なくなってしまうと思われる方も多いと思いますが、これはJGAP(ジェイギャップ)に統合するということですので、これまでご協力いただいた方には、しっかり説明する必要があるだろうと思っています。日本GAP協会に対しては、これまでASIAGAPの認証を取って、輸出に取り組まれた農業者の方々に不利益が生じないように、引き続き丁寧な説明をしていただくようにお願いしておりますし、我々としても同じです。これからの輸出は、日本の農業の一つの稼ぎの切り口となると我々は考えておりますので、統合後もしっかりこのGAP制度が日本の強みになるように、連携しながらやっていきたいと思っております。