財務相の諮問機関である財政制度等審議会はこのほど、〝建議〟「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」をとりまとめた(5月27日付)。6月に閣議決定する「骨太の方針」に反映される運び。このうち米政策では、家庭向け主食用米に偏ることなく、業務用をはじめとした多様なニーズに応じた生産を進めることを前提に、まずは「飼料用米を水活(水田活用の直接支払交付金)の交付対象から外す」ことを求めている。また需給調整装置としての外国産米の活用、民間備蓄の導入も提言している。
建議(抜粋)
(1)米・水田政策の改革の方向性
「令和7年度予算の編成等に関する建議」(令和6年(2024)11月29日)においては、「農業従事者が急減するなどの状況にあっても、食料安全保障の確保等を図るため、水田農業について、農地の最大限の集約化や法人経営・株式会社の参入促進等を通じた、生産性の向上・経営の効率化等を徹底して進め、高米価に頼らない、自立した産業へと転換を進めていくべき」旨や、「まずは飼料用米を水田活用の直接支払交付金の交付対象から外し、財政面での持続可能性を確保していくべき」旨の提言を行ったところであり、この観点から生産面での改革の検討を深めていく必要がある。
また、昨年夏に生じた店頭での米不足やそれに続く米価の歴史的な高騰が、国民生活に多大な影響をもたらしていることも踏まえ、米の安定供給の観点からも、国内における米の生産性向上を基本としつつ、国内需給の調整弁として複数の手法を備えておくことができるよう、民間在庫や政府備蓄米、輸入米の取扱いに改善すべき点がないか、しっかりと確認する必要がある。
(2)生産面の改革
① 内外の多様なニーズに対応できる多様な米作り
我が国における主食用米の需要量は平成25年(2013)には787万tであったところ、この10年間で705万tまで減少している。これに対し、これまでは補助金により水田における主食用米以外への転作支援を行うことで、主食用米価格が大きく下落することを防ぎ、農業者の収益を確保してきた。
しかしながら、こうした政策には制度疲労が現れており、転換を図る必要が生じている。今後は、これまでどおり多額の補助金によって転作を進めるのではなく、国内外の様々なニーズを踏まえた稲作の可能性について真剣に検討すべきではないか。これまでの水田農業は、特定の品種に偏った主食用米の生産を行うか、現行の補助金を前提とした転作の一環として主食用米以外の転作作物を生産するか、のいずれかの行動が主流となってきた。しかしながら、足もとではスーパー等の店頭で主食用米の品薄が生じ、価格が高騰していることに加え、中外食ニーズや訪日外国人増にけん引され業務用米の需要が増加している。また、規模としては大きくはないが、米の輸出量も伸びている。
こうした多様なニーズを的確に捉え、特定の品種に偏った主食用米と補助金に依存しない収益構造を確立し、農業従事者の所得向上を通じて、担い手を確保していくことが必要である。家庭用の主食用米以外にも、中・外食用の業務用米や加工用米、米粉用米、輸出用米等のそれぞれの用途毎の多様なニーズを見逃すべきではない。
例えば、業務用米の観点では、業務用として卸売業者等から販売された米は主食用米の約40%を占めるが、業務用に適していると考えられる多収米の生産は6%程度と推察されている。また、国産米の価格高騰に直面する中で、高額な関税の支払いが必要となる民間輸入が拡大している。こうした事象から、足もとでは業務用への安定供給というニーズに十分に対応できているとは言い難い状況にある。また、米粉用米の観点では、仮に徹底的な生産の低コスト化を進めることで、米粉を利用したパン等を一定の価格帯まで下げられれば、消費量の8割を輸入に頼る小麦に代わる原材料として、存在感を増すことが期待できる。
なお、マーケットの様々な声を的確につかみ取るためには、農地法による規制の緩和も含め、法人経営・株式会社の積極的な参入71が鍵となる。こうした者の参入は、農業人口の急減に対する対応として不可欠なものである。
② コストやニーズ等を考慮した転作作物
現状、飼料用米やWCS用稲は、10a当たりの販売収入が2万円程度である中で、転作作物として10a当たり8~11万円という高額な支援が振り向けられているが、先に触れたように、ほかにも挑戦すべき米作りがある。
特に飼料用に供される米(政府備蓄米及びミニマム・アクセス(MA)米として政府が保有するものを含む)については、国内で飼料として仕向けられる穀物の10%程度に過ぎない中で、毎年度約2,000億円もの巨額の財政負担が生じている。さらに、現在の食料自給率38%のうち、飼料用米は0.4%ポイント相当を占めるに過ぎない。他方、国内で飼料として仕向けられる穀物の約8割を占める輸入とうもろこしは市場価格で流通しており、これに対する財政支援は備蓄や急激な価格上昇時の激変緩和に限定されている。
実態として、畜産農家に直接供給されているのは飼料用米の7%程度であり、配合飼料工場等で加工され、流通しているものが大宗であると考えられる。このことを踏まえると、これまで生産・利用体制を構築してきた産地の実情は勘案するとしても、転作の観点はもちろん、飼料政策の観点からも、一律に高い単価で支援する必要性はなく、見直すべきである。
(3)安定供給
① 輸入米の機動的な活用
我が国は、米を関税化の例外とするための特例措置を受け入れたガット・ウルグアイ・ラウンド交渉(1986~1993)以降、MA米として77万t程度を国家貿易で輸入することとなっており、うち最大10万tに限り民間事業者が、その実需に応じて主に主食用として輸入可能(SBS枠)となっている。国内需給に影響を与えない趣旨から、残りのMA米は農林水産省が加工用・飼料用等として販売している。これに伴い、差損の発生等により例年多額の財政負担が発生している(令和5年度(2023)は684億円)。
SBS枠における輸入量は、民間の需要に応じて変動しており、国内で米が十分に供給されている状況では低水準となっているが、今般は、高米価や各事業者が米を確保する動きを背景に、輸入米の需要がかつてなく拡大している。具体的には、SBS枠が全て使い切られたほか、MAの枠外で、高い水準の関税を支払って輸入する事例が増加している。しかしながら、このような状況の下でも、SBS枠以外のMA米は加工用・飼料用等としての販売が継続されている。
MA米について、例えば、例年9月以降に実施しているSBSの入札を前倒しで行うことや、SBS枠の柔軟化を行うことなどによって、民間の実需に応じて主食用米として活用できる余地を高めることが望ましい。そうすれば、気候等によって左右される生産量の変動を補完する国内需給の調整弁として、生産量が需要量を上回るような局面ではSBS枠での輸入量が減少することも含め、全体の米需給の安定化に資することとなる。
② 備蓄のあり方の見直し
政府は備蓄米を、本来、著しい不作の場合に放出することを想定して保有している。先般、農林水産省は、流通の目詰まり解消を通じた米価高騰への対応として「買戻し条件付売渡し」というスキームを導入し、運用の弾力化を行った。今回の対応の効果については今後の検証が必要であるものの、こうした弾力的な運用の仕組みを用意しておくことは、供給不足への懸念を抑制することにつながる。
また、今回は、民間在庫量が低水準というサインを活かせなかったことが流通の目詰まりや供給不足への懸念を招いたとの見解も多い。一定水準の民間在庫量を確保し、流通段階での需給の調整弁とするため、例えば、小麦等の国家備蓄の仕組みを参考に、政府備蓄米の一部について、必要経費を支援することはやむを得ないとしても、民間在庫と合わせた保管に移行し、弾力的に活用する仕組みを検討すべきである。これにより、民間事業者の判断によりマーケットの需給に沿った在庫調整が適時に行われることで、需給調整が機動的かつ円滑に行われることとなるほか、財政面においても、処理費用等の大幅な削減が見込まれる。




