政府が総合経済対策のなかで重点支援地方交付金の拡充を打ち出したことで、にわかに注目された「おこめ券」。それだけに誤解もあるようだ。その代表例が、交野市(大阪)の山本景市長がSNSで「お米券を配布しない」と宣言したケースだ。「おこめ券」を発行している全米販(全国米穀販売事業共済協同組合、東京都中央区)、全農(全国農業協同組合連合会、東京都千代田区)とも、問合せが殺到しているため、それどころではなさそうだ。この場を借りて、「反論」させていただく。
山本市長による「お米券を配布しない」宣言の理由は、主に「経費率が10%以上と高い」ことと、「特定の者への利益誘導に繋がる」こと。
「おこめ券」には、全米販「全国共通おこめ券」と、全農「全国共通おこめギフト券」の2種類ある。どちらも、定価(おこめ券の販売単価)500円、額面(おこめ券1枚で購入できる米の単価)440円だから、経費率12%となる。これが高いだろうか?
似たように、ある程度使途を限定した金券に「ビール券」があるが、こちらは定価560円、額面488円だから、経費率12.9%になる。
そもそも「おこめ券」も「ビール券」も、立派な金券だ。発行には財務大臣の認可が必要になる。紙幣並みとまではいかないが、高度な偽造防止対策を施されている。ここに経費がかかる。
「おこめ券」に準じた「お米クーポン」や電子的な手段もないではないが、残念ながら経費率は、既存の「おこめ券」を下回ることはあるまい。
「特定の者への利益誘導に繋がる」? 確かに「おこめ券」を発行しているのは全米販と全農の2団体だけだから、「おこめ券」を使う限り、この2団体に「おこめ券」の発行代金が収まる。だが、まず「利益」といっても、たかがしれている。定価(500円)から額面(440円)を差し引いた経費60円のうち、全国団体の手数料は25円。全体の5%に過ぎず、しかも全額が利益ではない。
また「おこめ券」最大の特徴として、「有効期限がない」点がある。発行から5年後の回収支出は、損金計上される。つまり箪笥の隅などに眠っていた古い「おこめ券」を〝発掘〟して使われると、それは発行団体にとって利益ではなく「損失」になってしまうわけだ。「おこめ券」が使われる、イコール、米の消費拡大と考えて、自らを慰めている。長い目でみると「おこめ券」は、「利益」には繋がりにくいのである。
また、実は「おこめ券」の発行枚数には限度がある。法的に抑えられているという意味ではなく、「高い」経費率をかけて発行しているが故、短期間に印刷する枚数に物理的な限界があるのだ。だから全米販も全農も、無原則に「おこめ券」を受注することは出来ない。だからこそ――別に鈴木憲和農相を擁護する気はないが、重点支援地方交付金の使途を「おこめ券」に限定していないのである。
米価高騰を放置して、物価対策で補填する、その点をこそ批判すべきで、実状を知りもしないで的外れな批判を展開すべきではない。
山本市長は、「私は市民を見ながら、使い方を決めますから、経費率0%の給食無償化、経費率1%の上水道基本料金免除と下水道基本料金免除に使い、より多く市民に配ります」とも表明している。それはそれで結構だ。既報の通り、過去の重点支援地方交付金の使途は、「給食費に対する助成」が最も多い。無駄な悪者探しをするのではなく、目的を明確にして黙って助成すれば済む話なのだ。
