
政府米の放出が本決まりになった。2月14日までに数量と時期が明らかになる。江藤拓農相が2月7日の閣議後定例会見で述べたもの。「ここまで来たら(政府米の放出を)行わないことはない。売り渡しが始まると考えていただい
ていい」と言い切っている。
会見で江藤農相は、政府米放出の時期を明らかにしなかったものの、石破茂総理から「早急に進めるよう指示があった」ことから、「実施に向けて準備を急がせている」とした。
政府米の「買い戻し条件付販売」は、既報の通り去る1月31日の審議会で了承され、実際に実施するか否かの判断は農相に委ねられていた。
農林水産省によると、令和6年産主食用米の生産量は前年より18万t増えているものの、全農や全集連といった大手集荷業者の集荷量は前年より21万t少ない。これを「流通の目詰まり」と表現。江藤農相は「このトレンドは何として止めなければならない。明らかに米はあるのに集荷業者の手元にないという現実を見極めて判断した」と、政府米放出の判断理由を明らかにしている。
ただし放出の目的はあくまで「目詰まりの解消」であって、「価格をどうこうするということではない。ただ、いつまでも持っていれば古米になる。国の姿勢を示せば流通に乗せようという人も出てくるのではないか。その結果として価格も安定していくのではないか。スタック(滞留)した在庫が市場に出てくるように政策誘導したい」とも。
一問一答(2月7日、閣議後定例会見から抜粋)
大臣(略)政府備蓄米の活用については、(2月)4日の閣僚懇談会において、石破総理から私に対して、早急に進めるよう指示がありました。これを踏まえ、実施に向けての準備を急がせています。売渡数量など、入札の実施の概要は、早ければ来週中にはお示ししたいと考えています。
記者 政府備蓄米の買戻し条件付き売渡しについて、来週中にも入札の内容、売渡数量をお示しいただけるということでしたが、こちらは来週お示しいただいたら、実際にもう実施されるという形でよろしいですか。スケジュール感も教えてください。
大臣 売渡しの条件等をしっかりお知らせしなければなりませんので、その発表を来週中にしたいということです。発表すれば、それに興味を持っていただける集荷業者の方々は申し込んでいただけると思いますので、実際に売渡しが始まると考えていただいて結構です。
記者 スケジュールのイメージはどのように考えればよろしいでしょうか。
大臣 公告したからといって、パッと物が動くわけではありませんので、現物ですから、まず数量をしっかりお示しする。どれぐらいの価格帯であるかということをお示しする。それを集荷業者の方が、これなら自分のところはこれぐらいと検討するでしょう。その間には若干のタイムギャップがありますが、総理からも、できるだけ早く対応して欲しいということですから、農水省としては、条件の提示が終わった後は、集荷業者との合意を早く取り付けて、現物をお渡しする手続きを急ぎたいと思います。
記者 売渡しを実施することによって起きる現象として、消費者、農業者への影響はどのようにお考えでしょうか。
大臣 何度も申し上げておりますが、政府が価格に直接コミットすることは、原則的にはあまりあるべき姿ではありません。今回は昨年と違って、明らかに米はあるのに、21万tも集荷業者(の集荷数量)が集まらないというエビデンスが明らかになったので、いわゆる流通上のスタックを解消する意味での放出ですから、どのように価格が変動するかは、良い効果が出ることを期待していますが、これによって価格が下がるとか、そういうことを私から申し上げることは避けさせていただきます。
記者 一部の業者では、外国からの米の輸入枠を超えて、もっと増やす動きを始めている業者もいます。また外食産業では、国産米の割合を減らして、輸入した米の外国産米の割合を増やすという方針を固めている業者もいます。これらの動きは、国内産米の需要の縮小に繋がる動きだと思いますが、受け止めを聞かせください。
大臣 現実、今起こっていることは、(枠外関税を支払って、民間貿易により輸入された米穀の数量は、令和6年12月末時点で)500tにも届かない468tぐらいですから、700万tの国内需要に対して、微々たる数字だというのが現状です。ただ、今日の報道でも、2万t追加で輸入すると。しかしこれは、スポット的な動きだと思っています。アピールするわけではありませんが、週2回はスーパーに行きますので、タイ米の値段がいくらとかいうのも全部知っています。これだけ消費者物価が上がっている現下の状況においては、そういった選択をする方もいるでしょう。ご指摘のように、外食の方々については、私が行くところも、おかわり自由を続けているところがまだありますが、富山産の米をタイ米にすることも出てくるかもしれません。この動きは、しっかり注視しなければいけないと思います。懸念は、否定できないと思います。そういった懸念をしっかり認めた上で、今回の備蓄米の放出も、価格に着目した動きではないことは説明しましたが、これ以上高くなると、米自体を消費者の方々が選択しなくなる。朝ごはんに必ずお米を食べていた人が、食パンに変えてしまうとか、お昼はパスタに変えてしまうとか、おかわり自由ではなくなるとか、ご飯がタダだったところがやっぱり有料とかいう動きになると、国内の米生産には、影響が出ることは否定できないと思いますから、この動きについては注視したいと思います。
記者 備蓄米の件で、準備手続きを進めた結果、やはりやらないということはない、実施することは腹を決めたという理解でよろしいでしょうか。
大臣 集荷業者の方々(の集荷数量)が、正確には(12月末現在で対前年同月)20万6千t、約21万t、米がないわけです。この方々は、それぞれの売り先に対して、これだけのものを例年出していたが、その要求に応えられないということで困っているわけです。そういったところから条件をお示しすれば、手が上がることは明白です。ここまできて行わないということは、現実的にあり得ないです。
記者 具体的な時期はまだということだと思うのですが、月内なのか、来月なのか、大体どれぐらいの時間軸を考えていればいいのか、ざっくりとしたものでよいので、イメージを伺えればと思います。
大臣 正直なところ、これまでやったことがないので、国有財産ですから。売り渡すにしても、どの値段がメイクセンスなのか考えなければなりません。数量についても、どれだけのものを出したら、このスタックに対して効果があるのか、数量についても検討していかなければなりません。もちろん、正直なところ腹は決めていますが、私一人の腹が決まってもよくないので、省内でもしっかり議論した上でやらなければなりません。どれぐらいの時期に、売り渡した米が店頭に並ぶかは、経験がないことなので、お答えができなくて申し訳ないですが、やるからには、もたもたするのは良くないと思います。やると決めたら早くやったほうがいいです。役所も懸命に努力していますので、来週の何曜日に発表できるかわかりませんが、できる限り急いで、担当に頑張ってやらせます。
記者 昨日の全中も、食糧部会もそうだったのですが、農家の方からは、慎重な検討を求める声もあると認識しています。(1月)31日に制度を決めて、かなり早く腹を固めた印象は持っているのですが、その背景と、判断を下すことになった理由について、伺えればと思います。
大臣 あまりこういうことを言うといけないかもしれませんが、やはり責任ある立場は辛いと思いました。私の(地元の宮崎)県は、畜産県ではありますけれども、米を作っている方は、私の友人でも本当にたくさんいるわけです。ただ、現下の米の値上がり、今の市場価格の値上がりは、農家にはプラスに働いていませんが、それでも将来に向けて、今年はこれから田植えだけれども、今年の概算金はまた上がる。きっとJAも良い値段を示してくれるだろう。例えば、もうやめようと思ったけれども、あと2、3年は頑張るとか、そういう声も実際に聞いています。
そして、私は農業の生産基盤を守るのが一番大切で、それが食料自給率の向上に繋がり、生産者の意欲を削ぐようなことをしてはいけないとずっと言ってきました。それが、国が持っている備蓄米を出すことによって、今年の概算金や、農家の手取りといったものに影響を与えるとすれば、それは非常につらい話です。ただ、極端な値上がりは米離れや、米を食べてくれる人が減ってしまったら、かつての米価が安くてどうにもならないという時代に逆戻りしてしまう。極端な値動きになってしまう恐れもあるだろう。
もう一つは、その食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)の理念です。国の財産です。いざというときには備蓄米があるから、皆さんが飢えることはありませんという趣旨で、国が管理・保管しているものです。この総量が減ることが、国の安全保障上、正しい判断なのか。そして、食糧法の理念に則っているのか。第3条2項、49条、1条、様々な条文を読み込んだ上で考えました。何度も申し上げていますように、国民の皆様方に安心・安全な食料を安定的にお届けする義務も、農水省の大きな責務ですから、法律上の解釈、整合性、農家の気持ち、消費者の皆さんの気持ちの3つを考えると、どの判断が一番正しいのか非常に迷いました。しかし、最終的に決断に及んだのが、(11月末現在で前年同月比▲)17万tと言っていたのが、(12月末現在▲)20万6千tまで増えてしまうと。このトレンドだけは何としても止めなければ、消費者にとっても、生産者にとっても、きっと良いことではないと判断しましたので、今回の結論に至りました。
記者 (1月)24日、この件を最初にお話しされて、31日に正式に決まり、当初はスポット価格と先物価格は下がったと思いますが、そのあとはそれほど下がっていないと。農協によるとそのあとの集荷がそんなに進んでいないと。こういった発表をした後、市場の動向を見極めた上で今回の判断があったのか、伺えればと思います。
大臣 内容を話さないで、備蓄米を出すということで、先物が下がったりしたという報告は受けましたが、それがその後の判断に影響したということではありません。あくまでも、私が申し上げているのは、そういった経済指標ではなくて、スーパーや小売に売り渡してくれる集荷業者の方々の手元に米がないという現実を見極めた上で、判断に至ったということです。スポットがどうとか、先物がどうとか、それが私の政策判断に影響したものではありません。
記者 昨日、全中会長が、備蓄米の条件付き販売によって、相対取引価格が下落して、生産者の手取りが減ることを懸念していると。価格については、生産者が納得できる水準・相場が、適正であると。その一方で、消費者の理解も重要であって、それがないと一方通行になってしまうという私見を述べられました。価格はなかなかシビアで、センシティブな問題ですけれども、適正な価格についての考えをお願いします。
大臣 適正な価格は難しいです。何が適正かと聞かれれば、まず、生産現場で言えば、持続的な営農が担保されるのが適正な価格です、消費者に目を向ければ、納得のいく価格。今の状態でいうと、農家の人はこの値段で売っているはずなのに、店頭に行くと、農家の手取りと比較して極端に店頭価格が高い。これは消費者の理解を得られないと思います。生産、流通、加工、販売、消費者それぞれの段階で、関わる人たちが等しく、理想論を言うようですけれども、納得のいくことが大事です。生産者だけが納得してもダメです。消費者だけが納得してもダメだと思います。
国会に提出する予定の法律においては、それぞれの段階で、例えば、優越的地位の濫用によって、不当な価格設定をされたということであれば、農水省にお知らせいただく。お知らせをいただければ、ちゃんと協議しなさいと、指導勧告を業者さんに対して個別にすることによって、メイクセンス、理屈の通った取引がなされれば、それが最終的には合理的な価格形成になる。どこかの段階で、誰かが割を食うのはよくない。あまり利益を取り過ぎてもいけませんし、どこかで全く利益が出ないのもまたよくない。その過程も、最終的にはかくかくしかじかで、この値段ですということを、消費者の方々にご納得いただくのが合理的な価格形成の仕組みだと思います。
記者 先ほどのご説明だと、価格よりも、流通のスタックを解消するところに念頭を置いているので、全中の方がおっしゃるような、価格についての懸念は、また次元が違うという受け止めでしょうか。あくまで、流通のスタックを解消することが念頭にあって、相対価格がどうとか、先物価格がどうとか、そういう価格を下げるというものではないと。
大臣 おっしゃる通りです。備蓄米を出すことが本旨ではないと思っています。食糧法の理念からいっても、正しい方向性だとは思っていません。ただ、あまりにも供給量は増えている、昨年より増えているのに、集荷業者には、21万t近くも少ない米しか集まらない。これだけ見ても、今後の店頭価格を想像すればわかりますよね。何度も申し上げましたように、それは結果であって、価格をどうしようということではなくて、様々な方がストックされているのだと思いますけれども、いつまでも持っていても、米は古米になります。ずっと保管できるものではないので、国の姿勢を示せば、流通に乗せようという方々も出てくるのではないかと。その結果として、価格も安定していくのではないかと。あくまでも価格に着目したものではなくて、流通の円滑化や、スタックしている在庫が市場にちゃんと出てくるように、政策誘導したいということです。
記者 備蓄米について、来週詳細を公表されることで、それをもって集荷業者の方からの購入の申込受付募集開始という形になるのでしょうか。
大臣 来週中に出すのは数量、条件等であって、入札の公告は、なるべく急いでやります。内容を発表して、いきなり入札と言われても、買う方も検討する時間がないです。「そういう条件でしたら、うちはこれぐらい応札しよう」という検討が、集荷業者さんにも必要ですから、若干のお時間はいただくと思います。
記者 販売の価格については、相対には影響がないようにと。しかし、スポット価格は高騰しているというご認識だと思いますが、入札時の販売で参考にされる指標等があればお願いします。
大臣 それは、追って報告します。今、それを言ってしまうと、予想されてしまいます。来週発表する段階で明らかにしますので。
記者 販売の対象について、先ほど、17万t、21万tという数字が出ていたと思いますが、これは一定の取扱量のある集荷業者を対象にした調査だと思います。そういったところでスタックが起きているということで、今回の販売をされるということだと思いますが、それを踏まえて、備蓄米の販売の入札の対象がどういった方になることを想定されていますか。
大臣 それも、金曜日に発表します。今言うことはできませんので。追加的に申し上げておきますと、今までは大規模なところだけ在庫調査をしていましたが、1月31日から、いわゆる生産者、それに加えて小規模な集荷業者、卸の方々の在庫調査もしますので、それも踏まえた上で行っていきたいと思います。
記者 合理的な価格形成について、先ほど(自民)党(の部会)で話し合いされたと思うのですが、これを制度化する意義を教えてください。
大臣 やはり納得いくかどうかがとても大事です。生産者の方は、作ることについては、日本はプロフェッショナルだと思います。これまでの農家の気持ちとしては、一生懸命作ったけれども、そこから先は完全に自分の手から離れてしまうのが、フラストレーションとしてありました。生産から人の手に渡っていく段階で、自分はこれだけのコストをかけて、資材費も肥料費も電気代も燃料代も上がっている、だからこの値段で買ってくださいと、農家も交渉していただく。エビデンスを示すことは大事だと思います。そして、集荷の人たちも、卸の人たちも、販売の段階に移るときには、かくかくしかじかなのでこの値段ですと。100%それが反映される世界がベストですが、機械的にできることではないので、全ての農家の方に対して、これが可能かと言われれば、無理ではないかというご指摘もあるかもしれません。ただ、これからの農業経営は、例えば青色申告も含めて、自分の経営について、コスト計算ができないと価格交渉ができませんから、やはり農業も経営だという感覚を身につけていただきたい。
例えば水産物でも、私は門川町という浜の育ちですが、浜の値段と料理屋の出ている魚の値段が極端に違う。下手すると、200円の魚が5,000円で出ていたりする。浜の人間からすると、誰がどこでこれだけの利益を取っているのだと。素晴らしい調理をしたから5,000円ということかもしれませんけれども。
一次産業で生きている人は、農業も林業も水産業も、「我々は少し割を食っているのではないか」という気持ちは、今でも強くあります。それで営農意欲を削いでいる部分がありますので、農家の方々が、自分が作ったものにはこれだけのバリューがあるということを堂々と関係者の方々に主張し、そして、それが農家の手取り、所得の向上につながっていく、それによって生産基盤が守られて、食料安全保障にも寄与していく、そういう形を作るためにも、合理的な価格形成という仕組みが必要だろうということで、法案を提出します。