江藤拓農相は3月21日の閣議後定例会見で、令和6年産米の相対取引価格が過去最高を更新したことの受け止めを訊かれ、「目詰まりが解消しているとは到底言えない状況」とした上で、21万tの政府米放出による「政策効果が得られないと判断した場合は、追加の放出も当然検討する」と述べた。また全農(全国農業協同組合連合会)が放出した政府米であることが分からないように販売するよう要請した点には、理解を示した。放出した政府米が先に売れてしまうことを懸念したもの。このなかで江藤農相は、「今回の価格帯であれば、ある程度お手頃な値段で」、「消費者が選んでいただける価格帯で」出ると思うと発言。「安くなる」とは発言しなかったあたり、若干トーンに変化が見られる。
ただ、これは致し方ない側面がある。何故なら、政府米売渡入札の加重平均落札価格「60㎏あたり21,217円」からして、店頭小売価格が下がることはあり得ないからだ。
目詰まり解消まで政府米を放出し続ける
残された手段を弄しても下がらない米価
政府米売渡入札の加重平均落札価格は、建値が「税抜き、包装代込みの置場価格」なので、言わば農協の集荷価格(概算金/仮渡金)に相当するものだ。これに運賃その他の流通経費と消費税を上乗せしたのが相対取引価格(建値は税込み、包装代込みの着値)になる。
相対取引価格と集荷価格との差額(流通経費+消費税)は、令和6年産米の場合、非常に大きい。2月末までの年産平均相対価格(24,383円)から概算金の単純平均(16,620円)を差し引くと、実に「7,763円」にもなる。全農は利益をとらず必要経費だけ乗せて政府米を売り渡すと耳障り良く標榜しているが、実はこの「7,763円」のうち全農の利益(手数料)は微々たるものだ。令和5年産米の目標値では「205円」。これを含めた流通経費総額は同じく令和5年産米の目標値では「1,744円」にしかならない。農林水産省も公表資料のなかで、「集荷団体が行う米の集荷・流通等に要するコストは、各県・銘柄によって異なるものの、概ね約2,000円/60㎏と推定される」としている。では、令和6年産米の流通経費が通常の4倍近くになっているのは何故か。前述した通り、60㎏あたり約4,000円は全農の利益ではない。農協の「共計(共同計算)」(既報)によって最終精算する際の財源だ。つまり「利益をとらない」と言っているのは、自分の懐の話ではなく、生産者がいずれ手にする利益のことになる。
話を戻すと、農協の集荷価格に相当する政府米売渡入札の加重平均落札価格「60㎏あたり21,217円」に流通経費(概ね2,000円)と消費税を上乗せした額が、政府米の相対取引価格に相当することになる。「60㎏あたり25,074円」。1月末の相対取引価格を下回っているが、昨年12月末の相対取引価格を上回っている。今の店頭小売価格の原価が2月末の相対取引価格(26,485円)なのだとすれば確かに安い。全農は、放出した政府米であることが分からないように販売するよう要請――などしなくとも、卸売業者などの中間流通業者はそうせざるを得ない。すでに高値で仕入れてしまった中間流通業者が、〝安い〟政府米を先に量販店などに売り渡すとは考えにくい。後回しにするか、高値の原料とブレンドして薄めるかして、引き下げ幅を圧縮せざるを得ない。5㎏100~200円は値下げ可能だろうが、このあたりが限界ということになる。
価格は下がらない。農林水産省に残された手段は、目詰まりが解消するまで政府米を放出し続ける、江藤農相が言うところの「チキンレース」しかない。仮に目詰まりが解消されたとしても、価格は下がらない。少なくとも暴落はあり得ないと断言できてしまうのである。

一問一答(3月21日、閣議後定例会見から抜粋)
記者 先日、相対取引価格が公表されました。過去最高を更新していますが、受け止めと、備蓄米の引き渡しが始まって、価格などで期待することがあればお願いします。
大臣 2月の相対取引価格、全銘柄で60㎏あたり26,485円と、相当高いです。集荷競争(による流通の)目詰まり、未だに解消しているとは、到底言えない状況だと思います。しかし、入札が終わり、集荷業者の方々に現物をお渡しすることが始まっています。まだ精米も始まっていませんので、できるだけ早く流通に乗せていただくことをお願いしなければならないと思います。もう発表しましたが、残りの7万tは(3月)19日に入札公告し、26日から28日まで入札を行います。その後、1週間以内には引き渡しをしたいと思います。これで一定の政策効果が出ることを当然期待していますが、もし、政策効果が得られないと判断した場合は、追加の放出も当然検討します。
記者 全農が先日、店頭などで販売する場合には備蓄米とわからないように販売するようなお願いをしていますが、受け止めと、農水省として販売方法に関しての発信や、どのタイミングで店頭販売されたのか確認する方法をどのように考えているか聞かせてください。
大臣 何度かお話したように、定期的にしっかり報告してくださいと。放出したものがどこかで流れずに止まってしまうことは、結構なことではありませんので、集荷業者から卸、小売、消費者の方々までしっかりお届けできていることを確認する必要があると思います。ただ、備蓄米として表示するかどうかについては、農水省として指示したものではございません。あくまで全農さんのご判断だと思います。その上で、私がこうではないかと考えているのは、今回の価格帯であれば、ある程度お手頃な値段で、利益を取る気持ちがないと全農さんもおっしゃっているわけです。消費者が選んでいただける価格帯で出ると思います。そうなると、店頭にあった備蓄米から一斉に売れてしまって、民間の小売の方々が持っている在庫がそのまま残るということになる。一時的には消費者の方々のところに品物は届くかもしれませんが、21万t消費後は、元に戻ってしまうことも想像される。例えば、「はえぬき」の備蓄米がありますが、集荷業者や卸が持っている「はえぬき」もあるわけです。同じ「はえぬき」でブレンドして出すということであれば、「はえぬき」なのです。年度が変わることはあるかもしれませんが、表示はされます。もしくは、「はえぬき」と他の銘柄を混ぜて出すのであれば、裏を見ていただければわかります。消費者の方々も注意を払って見ていただければ、判断できる材料は多分あると思います。決して全農さんも、隠そうとか、より利益を出そうとか、そういう意図を持って言っているのではなく、通常流れているものよりも、価格帯的に落ち着いたものが出れば、そこに集中的にお客様が集中する。我々としては、全体として落ち着かせたいということを考えているわけですから、それらを考えた上での全農さんのご判断だと思います。その要請を卸の方々や、小売の方々がそのままするかというと、強制力は全くありませんから、お願いベースです。中には、もしかしたら、備蓄米というシールを貼って目玉商品として売る方も、小売の中にはいるかもしれません。報告していただこうと思っていますが、そこまでは強制できないということです。
記者 報告というのは、どのような形で販売されたかということでしょうか。
大臣 シールを貼ったかどうかまでは確認しません。ただ、備蓄米がこれだけの量が出て、どれだけの量が、どういうルートを通って、どこに渡り、販売されたのか。それが問題であって、シールを貼ったかどうか、袋に備蓄米と書いてあったかどうかを確認するのは、あくまでも流通量に着目した今回の備蓄米放出ですから、そこまでは考えていません。そもそも我々の指示ではありませんので。
記者 今後、米の生産量を増やして輸出も拡大していくという大きな流れになった場合、生産体制を整えていく必要があると思います。生産の現場では、高齢化も進んでいますし、若者の参入がなかなか進まない状況もあると思います。そうした中で、現在の生産現場の課題をどう考え、解決策として具体的にどのような方針を示す考えか、教えてください。
大臣 総理ともだいぶこの話はしました。まず、輸出について申し上げますが、大体60㎏あたり9,500円ぐらいまで生産コストを下げていかないと、今の為替水準での計算ですけれども、なかなか輸出競争力を得るのは難しいです。生産コストを下げるには、大区画化をし、大型の機械も入れなければならない。スマート農業、IT、もっと先にはロボティクスとの融合です。スマートではなくてロボットです。ロボティクスとの融合も、これから考えていく必要があると思います。海外では、特には果樹園などでは、自走しながら、どこに虫がいるか、自分で判断して農薬をまく。今は畑にバーッと一斉にまきますが、「ここはまく必要がない」「ここはまかなきゃいけない」という判断をすれば、当然農薬の量も、肥料の量も抑えられるわけです。そういうコスト削減をすることによって、9,500円を実現する。そのためには基盤整備が必要です。いきなり5年後に(輸出目標)35万t、すぐに出来るとは思っていません。ただ、今回、作付意向は、(地域)再生協議会や都道府県が出しています。道県が出したのが29で、再生協議会は19道県が生産を増やす。その数量は、再生協議会の数字で12万tです。日本の水田は、生産して売れるということが担保されれば、生産力自体はあるのですから、そんなに無茶苦茶な目標ではないと思います。もうすぐ3月31日ですが、地域計画がこれまでに仕上がります。地域計画が仕上がれば、その土地の未来予想図が書けるわけです。こういう区画にするのだと。特に兼業農家の方を中心に、担い手が減っていくということであれば、そういったところは、白地と言われるものになります。そういった土地を引き受ける方に対して、奨励するような交付金もお支払いすることも考えていますから、生産の効率化、生産性の向上が図られれば、35万tは、5年後、可能ではないかと思います。ただ、世界で扱われている米のほとんどが長粒種です。短粒種のマーケットは競争が激しいので、品質と価格をしっかり作る。それから日本の米の美味しさをしっかり海外の方にわかってもらう、いわゆるマーケットメイクです。そこにマーケットがあるから入っていくのではなくて、マーケットを作る努力もこれからしていかないと、なかなか目標を5年後に達成するのは難しいかもしれません。今度の基本計画ではKPI(の設定)です。KPIということであれば、毎年成果を検証しなければなりませんので、引き続き緊張感を持って取り組もうと思います。どこかに米がいってしまった時には、国内市場のバッファーとして機能させることは可能です。そういったことをも考えています。