既報の通り農林水産省は3月14日夕、江藤拓農相が自ら記者会見を開き、政府米売渡入札(3月10~12日)結果を公表した。これが、果たして奏功するかどうか――週が明けて影響が見えてくる前に、予測してみよう。
政府米放出の政策目的
目詰まり解消と価格引き下げ
まず大前提として、政府米放出という政策行為の、政策目的は何だろうか。
当初は、あくまで農林水産省が言うところの「流通の目詰まり」の解消が唯一の政策目的であって、「価格は市場が決めるもの」という姿勢を貫いていた。例えば2月7日の閣議後定例会見で江藤拓農相は、以下の通り述べている。
大臣 何度も申し上げておりますが、政府が価格に直接コミットすることは、原則的にはあまりあるべき姿ではありません。今回は昨年と違って、明らかに米はあるのに、21万tも集荷業者(の集荷数量)が集まらないというエビデンスが明らかになったので、いわゆる流通上のスタックを解消する意味での放出ですから、どのように価格が変動するかは、良い効果が出ることを期待していますが、これによって価格が下がるとか、そういうことを私から申し上げることは避けさせていただきます。
だが「政府米を放出するヨ」と〝口先介入〟しても、末端価格は一向に下がらない。そのため徐々に、政策目的に「価格の冷却」の色が濃くなっていく。最近の会見だと江藤農相の発言は、ほとんど価格一色になっていて、まるで政策目的が入れ替わってしまったかのようだ。
ともかくも以下、政府米放出の政策目的が「目詰まり解消」と「価格引き下げ」にあることを前提に、これら政策目的が達せられるかどうかを予測していこう。
政府米放出の政策目的①
目詰まり解消できるのか
既報(①②③)の通り、当方は令和6年産米が滞留している段階を、第1に産地、第2に中間流通と踏んでいる。
だが農林水産省は、頑ななまでに中間流通で「目詰まり」を起こしていると主張しており、これには怪しげな新規参入業者も含まれている。そうした「主食である米にあまりタッチして欲しくない」業者を、「例えば町のレンタルコンテナとか、コンテナ倉庫とかに積んでしまうような方々」と、江藤農相は表現しており、「その人たちには、役所として、あまり変なとこに手出さないでねというのは、(略)卸や小売の方々に、何らかのお知らせは検討してみたいと思います」と発言している(3月4日の閣議後定例会見)。
約束は守るという意味か3月14日、政府米売渡入札結果の公表よりも前に、集荷、卸売、小売、各段階の全国11団体に「要請」した事実を明らかにしている。内容は、①主食用米の円滑な流通の確保と消費者への安定供給に向けた対応、②各種法令の遵守及び取引先への働きかけ――を求めたもの。一般マスコミはろくに報道していないが、それもそのはず、何ら効果を及ぼすものとは受け止められていないからに過ぎない。何故なら「怪しげな新規参入業者」が、そうした全国団体に所属しているとは考えにくいからだ。
それはともかく、「怪しげな新規参入業者」を含む中間流通で「目詰まり」を起こしている令和6年産米は、政府米放出によって世間に顔を出すことに繋がるのだろうか。
中間流通で令和6年産米を抱えている業者は、最初に農林水産省が政府米放出を言い出した際、反応しなかった。それは政府売渡価格の発表を待っていたからにほかならない。価格が明らかになれば、自分の仕入値と比較して、手放すか手放さないかを判断できる。
加重平均落札価格「60㎏あたり21,217円」が仕入価格と近ければ、大慌てで手放すだろうが、あまりに乖離していた場合、手放せない。大損どころか大赤字になってしまうからだ。だから「目詰まり解消」といっても、この仕入価格が「60㎏あたり21,217円」に近しい業者だけが対象となるわけだ。ところがここで、農林水産省は大変な失策を犯す。
発表した価格の建値が相対価格と異なっていたがために、「あれ? 意外と安い」と思った業者は多かったはずだ。そうであれば彼らは、大慌てで手放したはずだ。ところが農林水産省が加重平均落札価格を公表したのは、3月14日(金)の午後5時を回ってから。その週の取引はもう終わっているから、動くとしても週明けということになる。つまり建値を揃え、仕入価格と冷静に比較する時間的な余裕を2日間も与えてしまったわけだ。
中間流通段階の「目詰まり」が解消される可能性は、非常に小さなものとなった。
蛇足ながら付け足しておくと、農林水産省は政府米ではなく「備蓄米」という単語を好む。かつて回転備蓄だった頃、事後的な需給調整の道具に使われた経緯があるため、「政府米の役割はあくまで備蓄」に限定している意味から好んでいるのは分かる。しかし「備蓄米」という単語は諸刃の剣で、実態は通常流通している米と全く同じものなのに、まるで古いものであるかのような誤解を一般消費者に与える。農林水産省はいちいち説明しなくてはならないわけだが、それが〝円滑に〟伝わっているとは言い難い。
話を戻すと、当方が滞留していると考えている最多の段階は、産地だ。この産地に滞留している令和6年産米は、政府米放出によって染み出してくるのだろうか。これは正直なところ予測しようがない。中間流通と違って仕入価格があるわけではないので、比較するとすれば生産コストの上にどれだけ乗せられる価格水準か、だろう。その多寡をどう捉えるか。今の集荷価格水準だって、充分に生産コストを賄えている。にもかかわらず染み出てこないということは、不満を抱いているわけだ。だが、いつまでも抱えているわけにもいかない。そのタイミングを今回と捉えるか、「もう少し先」と捉えるかは、予測のしようがないのである。
政府米放出の政策目的②
末端価格は下がるのか
既報の通り、もともと当方は、政府米売渡価格の水準次第ではあるものの、令和6年産米が「さらに上がる」ことはないものの、「大暴落」もまたあり得ないというスタンスだった。
その上で今回の価格水準がどうなのかも、ほぼ既報した通りだ。
そもそも政府米売渡入札の加重平均落札価格「60㎏あたり21,217円」の建値は「税抜き、包装代込みの置場価格」なので、「税込み、包装代込みの着値」が建値の相対取引価格とは、単純比較できない。両者の違いのうち消費税は計算できるが、運賃は産地ごと異なるため計算しようがない。
また今回の価格は、言わば集荷業者の仕入価格なのであって、相対取引価格に相当する価格、つまり卸なり実需なりに売る価格には、集荷業者の手数料その他を上乗せする必要がある。実際に現物が動いているわけではないので、通常上乗せする手数料よりは圧縮が可能ではあるが、限界はある。
以上を勘案した上で計算してみると、いま現在の店頭価格を構成している相対取引価格と遜色ない水準にしかならないことになる。5㎏100~200円は値下げ可能だろうが、このあたりが限界だ。
農水省、次の一手は…?
にもかかわらず江藤拓農相は3月14日夕の会見で、「現在、店頭価格が5㎏4,300円くらいで推移していることを考えると、それよりはかなり低い精米価格になるだろう」と述べてしまった。
だが、ここまで述べてきた通り、恐らくそうはならない。では、農林水産省が打つ次の一手は何か。
政府米の追加放出。これしかない。事実、この日の会見で江藤農相は、今週(3月17週)にも「7万t」の政府米売渡入札を公示するとしている。今回の落札玉が出回るのは今月末頃のはずだから、それで末端価格が下がらなくても、「いま2回目の入札をやってます」と言えるわけだ。
それでも効果が出なければどうか。いよいよもって「チキンレース」の始まりである。ゆくゆくは政府米備蓄水準100万tの引き上げすら俎上に乗せてくることすらあり得る。